第三話 「侮れないぞ、行政書士試験」
いよいよ初めての行政書士試験受験日。私は埼玉で、彼女は栃木での受験でした。
結果は惨敗。彼女はぜんぜんできなかったといっていました。私も、自信はありませんでした。
行政書士試験は数ある国家資格の中でも、比較的簡単などといわれていますが、本当にそうでしょうか?合格率10%を大きく下回る年もあるのです。また、その試験範囲は広範です。教養試験もあります。なめてかかると、絶対に痛い目にあいます。
世間の評判だけで資格の難易度を判断しないでください。自分で実際に受験したことのある人は、世間体を気にして簡単だったと口では言っても、あんなにつかみどころのなく、難しい試験、もう2度と受験したくない!というのが本心でしょう。
さて、我々はそろって試験には不合格であったけれど、私の仕事がそれなりに落ち着いてきたので、結婚することにしました。でも、頭の中にはいつも、行政書士試験のことで一杯だったのです。ハワイの新婚旅行中も頭から離れませんでした。
予備校に通ったのに。何がいけなかったのか?私は、やり方を考え直す必要に迫られていました。
最初の試験では、すべての過去問を一通りこなすことが精一杯で、本当に弱点となる問題は何なのか?とか、繰り返し学習するしくみがないことや、弱点を補足するしくみをもっていないことに気がつきました。
そんなある日、ふとEXCEL(マイクロソフトの表計算ソフト)で問題や解説、回答を入力してみたらどうか?と思いついたのです。とても単純な発想です。そして、問題と解説、回答、そして簡単な数式を組んで勉強してみたのです。
これは、とてもシステムと呼べるようなものではありませんでした。でも、現在のようにお店やネットで行政書士向けのソフトや暗記ソフトなど販売されていなかったので、これでも、弱点の絞込みという点では、結構満足して使っていました。
でも、彼女が合格できるようにしてあげるには、きちんとシステムにしてあげる必要があったのです。
それは、次のような条件を満たしたソフトです。
- ひとつの画面から、操作ボタンで問題を順次呼び出し、○か×かのボタンを押すと、瞬時に解説と正解か不正解かを表示したい
- 学習する科目を登録・選択できるようにしたい
- 間違った問題だけ、演習できるようにしたい
- 間違った問題だけでなく、苦手と感じる問題に付箋をつけて、その付箋をつけた問題だけ演習できるようにしたい
- 科目ごとの登録されている問題の総数と現在何問目を演習中か表示したい
- 各科目ごとの正解率を表示したい
- 出題範囲、問題、解説、○か×かの登録・修正は、操作画面からできるようにしたい
- 各問題により多くの情報を書き込めるよう、ノートをつけたい
- もっと、見やすくしたい
- 問題や解説が長くなった場合には、テキストボックスに自動的にスクロール・バーを表示させて入力した文字を読めるようにしたい
- 先頭、最後の問題になったら、先頭か最後かのメッセージを出したい
- 現在演習している問題の次の問題だけでなく、前の問題も演習できるようにしたい
私は会計システムの開発・販売をしている会社で、4年弱、C言語プログラマとしての職務経歴があり、本格的なシステム作りを「ひとつ、やってみるか」と思うようになっていったのです。
しかし、本格的なシステム作りには、EXCELを裏で操る、ビジュアル・ベーシック(VBA)という開発言語を学ばなければなりませんでした。プログラムの仕組みは身についていましたが、その挑戦の前には新しい言語の壁がありました。
しかし、チャレンジすることにしました。
その前に、市販の行政書士試験向けのソフトはないものか?とあれこれ探してみたのですが、まだ、そのころは今と違ってありませんでした。
なぜなら、私はどうしても行政書士になりたかったのです。行政書士の仕事について調べれば調べるほど、益々そのとりこになっていたのです。行政書士試験の勉強とシステム開発作業が同時に進行していきました。
1月の合格発表から7月の結婚式まで、彼女は退職の手続きや結婚式や新居の準備に追われ、全くといっていいほど、試験勉強に手をつけることができませんでした。
私は、これではいかん!と思って、かなり本気でシステム作りに取り組みました。
数ヶ月かけて、やっとソフトが完成しました。おかげでVBAをマスターすることができ、得をしました。この技術は、勤め先でも大いに活用できました。自分の欲しいと思っているソフトを自分で自由に開発できる術を得たのです。もちろん、自分で事務所を開業する際にも大きな武器となります。これをやって、本当によかったと思っています。
私はこの自作ソフトでの演習を開始したのです。もちろん彼女にも「このソフトでやってみて」と薦めてみました。私は、このソフトには自信がありました。彼女も何の疑いもなく、このソフトを受け入れてくれました。彼女がすんなりこのソフトを受け入れることができたのは、どうしてでしょうか?
夫婦の信頼感? 少しはあるかもしれないけれど(そう、信じたいけれど^_^;)、いーえ、夫婦だからといって、試験合格のためには必死なのです。何の根拠もなく、合格できるか分からない、得体の知れないソフトに付き合っていらないのです。
では、何が彼女をそうさせたのでしょう?
それは、私もそうであったように、使ってみて実力がつくことを実感できたからに他なりません。 我々は、このソフトを使って毎日毎日、実力がつくのを実感しながら問題の演習を繰り返しました。そして我々は、幸運にも合格を手にすることができたのです!
このとき、自分の望むことをうまく想像し、そのことを考え続け、実現を信じ、行動することがいかに大切であるかを知りました。
私はもう、他人の才能をうらやましいとはもう思わなくなりました。なぜなら、わたしにもある力によって無限の知恵が授けられていることを知ったからです。私は私の力で直面した困難に立ち向かって解決策を得たのです。
私は、私の力によって恩恵を受ける権利があります。
まもなく、わたしは自分が望んでいた職を手に入れるであろうことを予感しました。
そして、この行政書士試験受験から学んだことは、
- 欲望のないところに成就はないこと
- 自分と向かい合ったときに自分の中に無限の力があることに気がつくこと
- 自分は自分の力を引き出すことができるということ
- 自分が頭の中で考えていることは、間違いなくすべて実現すること
- 情熱だけでなく、反復継続して考えることが大切であること
- 周囲の人に成功を願うと、その人は恩恵を受けて利益を得ること
- 明確に企画し、行動を起こした者だけが目的を達成できるということ
我々には、行政書士事務所を開業したいという強い思いがありました。この思いが強くあったからこそ、一見遠回りとも思えるソフト開発なんて出来たのです。 何事を始めるにしても、動機づけがしっかりしていないうちは、大事は成し遂げられないものです。
そして、次に今を振り返れば、はじめからこうしていたらもっと効率的かつ効果的に学習できたのに!と思う方法があります。
私も試験失敗組みの一人でした。いろいろな教材やソフトに手を出しました。でもだめだったんです。しかし、どうしても合格したかった。あきらめたくなかったのです。
自分には能力がないということを認めたくなかったのです。そして何より、合格して自分のライフスタイルを変えていきたいと真剣に願っていたのです。
そこで、自分で本当に納得できるしくみを作ろうと決心したのです。私は、自分でそのしくみを開発して、そのしくみに忠実に沿った学習をして、そして、合格を勝ち取ることができました。
第四話へ続く